潜在的な価値を顕在化し、新しい価値をつくるデザイン
“Valuable Design”(バリュアブルデザイン)

障害の有無の関係なく、チームとして運営を続けてきたveerncaは、ワークショップやソリューションをデザインする方法を、潜在的な価値を顕在化し、新しい価値をつくるデザイン"Valuable Design"(バリュアブルデザイン)として取りまとめました。さらに、そのデザインを実施する過程をデザインプロセス”Valuable Design Process”として、大きく4つの段階で体系化しました。

Valuabel Designを行うための、Valuable Design Processは大きく4つの段階で構成されています。

1. Building trust 信頼関係の構築

Valuable Designを進めていく上で、もっとも最初に行うのが信頼関係の構築です。会話をしながら食事し相互を理解する、ワークショップを一緒に体験するなどの共同体験を通じて、チームメンバー間に信頼関係を構築します。

2. Discovering potential value 潜在的価値の発見

次に、ワークショップなどの対話を通じてチームメンバーが持つ、顕在化されていない強み、価値を見つけていきます。デザインしたい対象領域に関するトークテーマを用意しておき、そのテーマについて考えていることや実践できることを深掘りしていきます。この潜在的価値の発見は、信頼関係を構築したメンバーで行うことが重要です。

3. Realization of value 価値の顕在化

見出した潜在的な価値を、アイデアを出すアイディエーションや、アイデアや価値を形にするためのプロトタイピングなどの発散的な手法を用いることで、顕在化させます。

4. Presentation of value 価値の提示

アイデアやプロトタイプとして顕在化された価値を、設計して精緻化し、外部へ提示することでフィードバックを得て、さらにブラッシュアップしていきます。

以上のプロセスでデザインをするのが、veerncaが提示する”Valuable Design Process”です。 このプロセスに沿ってデザインした例をご紹介します。

位置で情報を管理する、新感覚アプリ “moom”と、景色や日常を耳で聞いて想像するSNS “heart”。

“Blind Power”のコンセプトのもと、世界最大のテクノロジーとカルチャーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)に出展した“moom”と“heart”は、Valuable Design Processに沿ってデザインされました。

moomとheartイメージ画像とロゴ画像

4つのプロセスで実施したことをご説明します。

実施内容1. Building trust 信頼関係の構築

本ソリューションは、veerncaのメンバーと、パートナーである視覚障害者の上田喬子さんと松村道生さんがチームメンバーとして関わっています。チームメンバー間の信頼関係は、ワークショップの協働開催やオンラインでの雑談などを通じて構築しました。

実施内容2. Discovering potential value 潜在的価値の発見

対話を通じて、視覚障害があるメンバーの「なにかを覚えるとき、頭の中に情報の部屋をつくって記憶する」という情報管理方法と、「音から多様な事柄を想像する」という情報洞察方法の、2つの潜在的な価値が発見されました。

実施内容3. Realization of value 価値の顕在化

「なにかを覚えるとき、頭の中に情報の部屋をつくって記憶する」という情報管理方法の価値を、自分の周りに仮想の「メモ空間」をつくり、部屋にモノを配置する感覚で情報を管理できるツール“moom”として取りまとめました。
また、「音から多様な事柄を想像する」という情報洞察方法の価値は、聴覚をベースにしたコミュニケーションとして、景色や日常を、耳で聞いて想像するSNSの“heart”として取りまとめました。そして、“moom”と“heart”という2つのアイデアを、プロトタイピングを通してブラッシュアップしていきました。

実施内容4. Presentation of value 価値の提示

顕在化した価値のフィードバックを得るために、世界最大のテクノロジーとカルチャーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)に出展しました。フィードバック内容は、取りまとめたのち、更新します。

「インクルーシブデザイン」との違い

Valuable Designの考え方に近いデザインプロセスとして、「インクルーシブデザイン」が挙げられます。英国規格協会(2005年)は、インクルーシブデザインを「特別な適応や専門的な設計を必要とせずに、合理的に可能な限り多くの人がアクセスでき、利用できるような主流の製品やサービスの設計」と定義しています。
ケンブリッジ大学は、さまざまな状況下で幅広い顧客が製品にアクセスできるように設計をするために、明確なターゲットユーザーを捉えて開発すること、としてインクルーシブデザインを整理しています。

インクルーシブデザイン概念図

インクルーシブデザインで開発された商品の例として、「みんなのはさみmimi」があります。これは、はさみをうまく握ることができないユーザーの、握れないという悩み(ペイン)を解決するために、握るという構造を廃して、円形スプリングを採用し、はさみを握れなかったユーザーはもちろん、誰でも簡単に使えるデザインになっています。

みんなのはさみmimi 画像

これはインクルーシブデザインで生み出された商品ではありますが、Valuable Designではありません。それは、Valuable Designは潜在的な「価値」を、顕在化することをデザインプロセスの中に入れ込んでいます。みんなのはさみmimiは、はさみを握れないユーザーの価値や強みを見出したのではなく、悩み(ペイン)を解決しているためです。

一方、「注文をまちがえる料理店」というレストランがあります。注文を取るホールスタッフは認知症の人たちで、オーダーとは違った料理が出てくる可能性がある、というものです。

「注文をまちがえる料理店」 画像

こちらは、認知症の人の「忘れてしまう」ということを価値として捉え、注文を間違えることで客は想定外の美味しさに出会うことができる、というポジティブな価値に変換しています。これは潜在的な価値を発見し、顕在化しているため、Valuable Designであるといえます。

さらに、本プロジェクトを運営する、一般社団法人「注文をまちがえる料理店」で代表理事を務める和田行男さんは、介護サービス事業を展開する株式会社大起エンゼルヘルプの取締役であり、介護福祉士です。そのため、認知症の方々のことを深く理解し、信頼関係も構築できていたと考えられます。

Valuable Desingの名称の由来

Valuable Designの"Valuable"は、障害者の活躍推進に取り組む国際イニシアティブ「The Valuable 500」に由来しています。「Valuable 500」は、2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にて発足し、障がい者がビジネス、社会、経済にもたらす潜在的な価値を発揮できるような改革をビジネスリーダーが起こすことを目的とした取り組みです。
Valuable 500で述べられる、潜在的な価値を発揮するためのデザインをとりまとめたため、「Valuable Design」としています。

潜在的な力を顕在化し、新しい価値をつくるデザイン”Valuable Design”。ぜひ、veerncaと一緒にValuable Designを用いて、新しい価値を持つソリューションをつくっていきましょう。